■2022年9月14日(水) On-Site Reort 529号――NEDはなぜ成功したか
●ガス化CHPのVolterを組み込んだ自立分散型システムが、災害停電時でも十全の作動
NEDはなぜ成功したか?
シンエネルギー開発(株)(NED、群馬県沼田市、橋伸也社長)は9月1日本社で、同市との防災協定に基づく防災訓練を実施し、NED社員のほか沼田市の地野裕一地域安全課課長、地元久屋原町の池口敏雄副区長らが参加して避難者の案内や動線、非常用電源システムの稼働などを確認した。
NEDの避難スペースで災害時に熱電エネルギーを供給するのは自立型の木質バイオマス熱分解ガス化CHPシステムだ。バイオマス発電は太陽光・風力などの再エネと違い、燃料さえあれば天候に左右されず24時間稼働できるため、長時間におよぶ広域停電の際にも、CHPと蓄電池との組み合わせでエネルギーを確保できる全国でも類のない避難施設という。
訓練では、ガス化CHPが稼働している状況でブレーカーを落として外部電源を切断することで人為的な停電状態を作った。それを関知したEMS(エネルギーマネジメントシステム)が、いざというときにエリアの電力系統から切り離されても、速やかに蓄電池からの電源供給に切り替えて社内の空調・通信機器などが作動することを確認。さらに、電力供給が断たれたことで一時的に運転を停止していた ガス化CHPが蓄電池からの電源供給で再起動する状況も確認。停電から補助電源の起ち上げまで5分以内であることなども含めて、すべて当初予定していた時間や容量で実行できることを確認した。ガス化CHPは熱と電気を供給できるが、稼働するためには外部電源が必要。NEDのシステムは非常用蓄電池だけで、館内の照明のみならず 空調や温水器・通信機器なども利用可能で、まったく節電をしない日常と同じ利用状態でも10時間以上は避難者が快適に過ごせてガス化CHPに稼働用電力を供給できるようになっている。
併せて地域の避難者を施設内に受け入れるために必要な、避難者受付作業、リスト作成や指定場所への案内、コロナ禍のなかで不安なく滞在できるパーティション設置、飲食物提供などの訓練も行い、長時間におよぶ広域停電が発生しても熱電エネルギーを確保して避難者が快適に過ごせることを確認した。
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NEDは石狩・鹿島・米子・富山ほか複数の大型バイオマス発電プロジェクトを成立させたデベロッパーとして知られるが、ポストFIT時代を迎えて小型分散電源にも電源開発の版図を拡大しつつある。
同社が防災にも適した自立型エネルギー設備として導入しているのは木質バイオマス熱分解ガス化CHP・ボルタ(Volter、定格出力40kW)と、蓄電池(100kwh)やそれらをコントロールするEMSなど一連のシステム。ガス化CHPの発電燃料は地域で発生するスギ・ヒノキ・マツなどの間伐材等未利用材をチップ化したもので、燃料は本社敷地内に貯留できるストックヤードを設置してある。防災用施設は非常時だけ稼働させるものが多いが、小規模・熱電併給に適したガス化CHPは、平常時でさえ順調稼働が難しい。NEDは解決策として心構えを一新して、本社屋をラボ(研究所・実験室)と位置付け地域で得られるバイオマスを利用した小規模なエネルギー供給システムを導入。日頃から本社のエネルギー需給システムを使って実践的な試行錯誤を行うことにした。制御システムは複雑に入り組んでいて一知半解の記者には正確に解説することができないが、稼働のおおまかな仕様はこうだ。
日常はガス化CHPの電力は社内で利用する。24時間稼働させており、夜間発生する余剰電力は蓄電池に貯めておいて昼間の電力ピーク時に電力不足が発生する場合は補完利用する。災害時に停電した場合には蓄電池の電力を避難スペースに供給しつつ、同じ蓄電池電源からガス化CHPを再起動し、復旧までの間災害用熱電併給装置として系統から離れて自立利用できるという優れものだ。こう書くと簡単に聞こえるかもしれないが、これらを最適な状況で作動させるためにPCS(Power Conditioning System)、BMS(Battery Management System)、EMS(Energy Management System)などというさまざまな電気的仕組みが複雑に入り組んで制御している。
社内の日常的エネルギー需要をガス化CHPで賄うことで、メンテナンスの技術も磨き、災害が発生していざというときに稼働できる態勢を整えた。本社を一時避難所として開放し、避難者に備蓄品や休憩スペースを提供できるようにもしている。
これらの取り組みが評価され、2020年12月には沼田市と防災協定を締結。地元材を利用したチップの調達態勢なども吟味してさらに地域との連携を深め、今回実施した防災訓練では日頃からシミュレーションしている防災仕様の取り組みが実効あるもので、間違ってなかったということが証明されたかたち。
一方で稼働させるのに技術や経験だけでなく、良質・安定的な燃料調達ルート構築、乾燥工程の最適化という不断の努力が必要な木質バイオマスガス化CHPは、取材の経験からいうと災害どころか好天に恵まれた穏やかな日でも停止していることもあるほどだから、平常時でも稼働率を上げるのは容易ではないというのが大方の常識だろう。しかも平常時に動いているからといって、災害時に十全の働きができるかどうかも保証ができない。だから、外部電源喪失⇒非常用蓄電池からの供給⇒再稼働という災害時のシミュレーションを社を挙げてしばしば繰り返してきたNEDの取り組みは、木質バイオマスガス化CHPを知る者にとっては、かなり過酷な負荷テストであることがわかる。
今回の防災訓練では、木質バイオマスガス化CHP、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーやさまざまな制御システムを組み合わせることで、これまでになかったほど災害時にも"使える"システムが稼働して大きな成果を得たが「さらに短時間で非常用電源を起ち上げられないか、さらに機能的で快適な避難スペースをご提供できないか、防災対策で困っている地域で導入できるモデルケースができないかと常に考えている」(橋伸也NED社長)と現状に甘んじず上を見続けるNED=New Energy Development社の企業風土から、どんな小規模分散地域密着型システムが生まれるか。今回の防災シミュレーションの詳細が伝われば、全国の自治体から注目が集まるだろう。
(お知らせ/橋伸也NED社長が熱い思い語るインタビュー記事を近々掲載の予定です)
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